第465回 【本の解説】伝統小売と近代小売の両方を攻略 その3
新刊はこちら » https://www.amazon.co.jp/dp/449565019X
定期セミナーはこちら » https://spydergrp.com/seminars/
テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日も引き続き、この『グローバル・マーケティングの基本』 日本実業出版社から私が出した本ですが、これについて解説をしていきたいと思います。今日で3回目かね。3回目かね…。164ページ、「伝統小売と近代小売の両方を攻略する」ということで、今日で3回目です、このエピソード。今日で終わりにしたいなというふうに思うのですが、前回、前々回とどういうお話をしたかについて先にざっと説明をすると、近代小売と伝統小売の市場、新興国に行けば行くほどこの伝統小売というものから逃れることはできませんよ、伝統小売の比率というのはこれだけ大きいんですよというお話をスライドをしてやったと思います。
ちょっとスライドを。すみません、前回、前々回と同じスライドを出してもらって…。これですね。特にね、ASEANを3つに分けると。私はSMT、シンガポール、マレーシア、タイランドと、先進ASEANという、ASEANの中で最も発展しているASEANですね。次にVIP、ベトナム、インドネシア、フィリピン。ベトナムは1億弱、フィリピンは1億強、インドネシアは3億弱の人口を抱え、最も今後ASEANで成長するだろうと言われているVIP、これがまだまだ伝統小売の比率というのは8割が伝統小売で非常に将来有望な、後進ASEANというふうに私は呼んでいますけども、ここが1つと。多くの課題を日本企業が抱えているのは、このVIPです。メコン経済圏はミャンマーが2020年のあれでああいうことになってしまったので、基本的にはちょっともったいない感じでしばらく様子見かなというふうになってしまって、ミャンマー、カンボジア、ラオスのこのメコン経済圏があると。この3つに分けるというのがあるのかなというふうに思います。
そんな中で特にこのベトナム、インドネシア、フィリピン、VIPにフォーカスをしたときに、非常に、この図の通りなんですけど、左側の近代小売の数が少ないですよね。日本だとセブンイレブン1社で2万店以上ありますから、基本的に非常にまだまだ近代小売が少なくて、じゃあ、これが爆発的にもっと多くなるかと言うと、なかなかそうではなさそうだなと。一方で伝統小売というのは、ベトナムで66万店、インドネシアで300万店、フィリピンで80万店あって、基本的にはこの伝統小売というものが非常に彼らの生活とマッチしているというか、非常に入り込んでいて、そう簡単にはいかないんじゃないかなと。一時期コンビニが非常に伸びていた時代もあったんですけども、ここに来てコンビニの出店数もペースダウンしているので、スローダウンしているので、そうじゃないんじゃないかなという状況になっていると。
前回までのお話だと、この近代小売で確実に売れ筋になるということ。例えばベトナムだったらウィンマートで確実に売れる、コープマートで確実に売れる、フィリピンだったらSMで必ず確実に売れる、ピュアゴールドで確実に売れる、こういう前提があってはじめて伝統小売のオーナーは、それを取り扱いたいというふうに考えるので、基本的には近代小売で売れ筋になるということが伝統小売に入る登竜門だというお話をしていて。
一方で、もう1つの条件としては伝統小売で売りやすい形態に変えていくと。例えば入数を少なくするとか、グラム数を少なくして、価格を安くするということがすごく重要で。伝統小売の最大のメリットって、魅力って、消費者にとって何かと言うと、今使いたい分だけを買えるということが伝統小売の最大のメリットなんですよね。それはどういうことかと言うと、例えば薬だったら、今頭が痛い、頭痛薬飲みたい。けど、頭痛薬というのは日本だったら2錠飲みますね。24錠入りとか36錠入りで売っているわけですけども、今のこの頭、頭痛をとるための2錠が欲しいので、残りの22錠とか34錠というのは、いつまた頭が痛くなるか分からないから要らないわけですよね。われわれの感覚だったら、われわれぐらいの所得だと余ったものは次使うから置いておけばいいかということになるわけですけども、基本的には新興国の人たちはそういう感覚にはならない。今の頭痛を解消したいと。もう我慢して我慢して我慢したけど解消できない、この頭痛を解消したい。だから、2錠だけが買いたいと。この2錠あたりの金額が24錠セットで買ったほうが安かったとしても、今欲しい2錠でいいんですよね。1割高い、2割高い、それでも2錠のほうがいい。なぜならば、彼らが負担するキャッシュフローが少なくて済むという、この個人のキャッシュフロー、家庭のキャッシュフローを少なくさせるということが非常に重要で、この今使いたい分だけを売るというのが非常に重要です。
あと、居住区エリアにあるような伝統小売の場合は、いわゆる来客時の茶菓子としての市場も実はあって、われわれだと来客時の茶菓子って、銀座の虎屋に行って羊羹を買ってくるとか、銀座の三越の地下に行ってヨックモックを買ってくるとか、そういう感じになるんですけど、まだまだ新興国だと、その辺の伝統小売でヨーロッパのこんな、日本でも昔あったんですけど、こんなカンカンに入ったまあるいカンカンに入ったクッキーの詰め合わせみたいの、結構あるんですよね。ああいうのを日本の百貨店の下に売っている高級クッキーじゃなくて、もっとヨーロッパのカジュアルに食べれる、パッケージは結構たいそうな感じのデザインにしてあるんだけども、そういうもの。そんな凝ってないですよ、本当にクッキーが詰め合わさっているというものとか。あと、抹茶系のクッキーとかね、台湾メーカーが日本語の表示のパッケージにして日本っぽくしたような、安い抹茶系のクッキーとか。日本のお菓子もそうですよ、明治やロッテがつくるお菓子、ああいったものも彼らにとってはなかなか良い商品なので、お客さんが来たときに出せる商品なので、そういうものが結構伝統小売で売られていたりするんですよね。居住区、これは本当にエリアによります。なので、富裕層の住むような居住区エリアの伝統小売というのはそういうものが売れ筋だったりするので。真逆ですよね、今使いたい分だけということではなくて、そういう来客時の茶菓子としても売られているので、そういうものが売られていきますよと。
じゃあ、この伝統小売が今後将来にわたって、基本的には今までの考え方で言うと、近代小売が伝統小売を食って全てが近代化される、特に近代小売の中でもコンビニが伝統小売を食っていくというような仮説がずっと考えられていたわけですけども。どうやらここ近年、そうではなさそうな様相も見えてきていると。その1つは、まずコンビニの出店数が鈍化していることに加えて、このデジタイゼーションですよね。DXの流れ、コロナで余計にASEAN、どの国でも小さなスーパーマーケットの需要というのが非常に高かったわけですよね。大きいところに行って買うということではなくて、小さなスーパーマーケットの需要って非常に高くて。これはそうなんですよね、全てのスーパーが大きくなったら、絶対小さなスーパーの需要って、ミニスーパーみたいな需要は出てくるので、結構ASEANの大手のスーパーマーケット、ハイパーマーケットが小さな店舗の出店に力を入れていたりとかっていうので。それの究極が伝統小売なわけですよね。伝統小売と近代小売の最大の違いは何かと言ったら、POSレジが置いてなくて、見た目が汚いというだけの話ですよね、ドアがないとかですね。それってデジタル化によって全然改善できるわけですよね。だから、伝統小売がデジタル武装したときに、すでにそういうサービスを展開しているIT企業も増えてきていて、これってメーカーにもいいし、問屋にもいいんですよね。だって、伝統小売のオーナーがスマホでオーダーをして、オーダーに応じて決済が全部オンラインで決済されるわけですよね。今までって問屋さんが商品を届けて、そのたびに現金回収して、それを持ち帰ってカウントして、メーカーに払ってみたいなことをやっているわけですよ。そういういわゆる労力が全部オンライン化されるので、オンライン決済になるので、こんなに良い事はない。だから、問屋もオンラインでスマホで注文してくれたら割引しますみたいな、こんなサービスをしていたりするので、どんどん仕入れ側、伝統小売の仕入れ側もデジタル化しているし、売る側も、言ったらQRコード決済になって、全部デジタル決済になっていると。
そうなってきたときに、いやいやコンビニよりもより近い距離でね、コンビニが数百メーターおきだったら、伝統小売というのは数メーターとか数十メーターおきにあるわけで。しかも、いわゆる中央集権型のサービスですよね、コンビニエンスストアって。でも、そんなことではなくて、伝統小売というのは小さなファミリーがそんなにたくさんのお金じゃなくていい、自分たちが生活する範囲のお金がそこで収入源として入ればいいというほうが無数にあるという世界観のほうが実はいいんじゃないの?という考え方もあって。基本的には政府もこのコロナ禍で伝統小売に散々支援をしてきているんですよね。だから、伝統小売をつぶすなんていう方向にはそもそも政治が動いていない、ASEANの。基本的には伝統小売のいわゆるスモールビジネスの事業の店を救いますと。政治家だったらそうしますよね、基本的には。なので、そういう守られた領域であるということも加味していくと、伝統小売が完全に淘汰されるという世界観は来ない。これは考えたら分かるんですけど、インドネシアの446万店とかの伝統小売がなくなるのに、毎年、今、平均で何万店かなくなっているんですよ。何万店か減っているんですけど、446万店もあったら、180年とかかかってしまうんですよね。3倍のスピードでそれがなくなっていったとしたって90年ぐらいかかるので、基本的にはそんなになくならないので、伝統小売はやらざるを得ないというのが基本的な考え方かなというふうに思います。
では、この「伝統小売が重要だ」という話はこれぐらいにして、次の4-2ぐらいからどんどん、どんどん、ではその伝統小売をどうやって攻略していけばいいの?どういうふうにチャネルをつくればいいの?という話になってくるかと思います。
それでは皆さん、今日はこれぐらいにします。また次回お会いいたしましょう。