第508回 【本の解説】Q&A ディストリビューターとの上手な付き合い方とは? その2
新刊はこちら » https://www.amazon.co.jp/dp/449565019X
定期セミナーはこちら » https://spydergrp.com/seminars/
テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も引き続き、この『グローバル・マーケティングの基本』 日本実業出版社から私が出している本ですが、この本の解説をしていきたいと思います。今日もね、最後、264ページ、ケース8、前回の続きです。「ディストリビューターとの上手な付き合い方とは?」ということで消費財メーカーから。「売上を拡大するためにディストリビューターにいろいろと施策の提案をしているが、なかなかやろうという流れにはならない。基本、任せて口を出すなというスタンスのようです。しかし、それでは現状から大きく売上を拡大することはできないと考えている。どうすればディストリビューターは動いてくれるでしょうか」という、そういう話で。前回お話したのが、この問題はよくありますよと、B2Cに限らず、B2Bでもよくあるよと。日本のメーカーと現地のディストリビューターとの間でのパワーバランスの問題であると。この問題、パワーバランスが崩れる要因がいくつかあるので、その要因について前回お話をしたと思うんですよね。
1つがいわゆる、前回の番組を見てもらって、エピソードを見てもらったらと思うんですけど、契約締結前のプロセス、ここでいわゆる形式的な契約締結をしているので、役割の契約締結をしていて、戦略を握った契約締結ではないわけですよね。だから、そこで築かれるはずのパワーバランスが築かれていないまま来ているというケースが1つ。
もう1つは、ディストリビューターの身になってみたら、今まで歴代の駐在員が3年とか5年で帰任するたびに施策が尻切れトンボになって、尻切れトンボの施策を散々やってきているので、もういいよということが2つ目の要因としてありますよ、というのが2つ目。
3つ目が、これもよくあるんですけど、やっぱり圧倒的な知識不足、日本のメーカー側の知識不足が圧倒的にないところに対して、向こうもそう思っているわけですよね、「今さら首を出してきて何だよ」と。特に日本の本社から、東京の本社から口を出す場合に関してはそういうケースが多くて。「圧倒的に知識がないのに、今さらわれわれと何を売ることについて話し合うんだ。おまえたち、分かっていないだろう」と。向こうから出てくるのというのは、「金を出せ」という類の話。例えば「割引してくれ」とか、「Buy one, Get one Freeをやってくれ」とか、これは小売もそうですけど、いわゆる「50%セールをやりましょう」とか、そういう話にしかならないので。「一緒に何か施策を考えるとか、そういうややこしいことは要らないから、プロモーションフィー出して、もしくは商品を割引して」みたいな話に陥ってしまうんですよね。なので、そういう3つの問題。契約締結前のプロセスで、戦略を握る契約締結ができていないということと、それから駐在員がころころ代わってきているので、尻切れトンボの施策を散々やってきたよと、ディストリビューターの身になってみたら、もういいよと。あと、日本のメーカー側の知識が圧倒的に足りていないので、なかなか一緒にやりたくないよねというのと。
でね、4つ目の要因は、スイートスポットにはまっているというケースがあるんですよね、ディストリビューターの。私はスイートスポットとかって呼んでいますけど。ディストリビューターとメーカーって、必ずしも常に利害は一致しなくて。もちろん売れたら両社が儲かるというのは、これは大きな意味でね、マクロの意味ではその通りなんですけど。じゃあ、少しミクロで考えてみるとね、ディストリビューターにも経営資源があって、今ある経営資源の最大値、一番儲かるところに到達すると、やっぱりそれ以上はやりたくなくなるんですよね。なぜならば、今の人の数、セールスの数、トラックの数、なんとかの数、その経営資源の中で今のこの売上というのが一番彼らにとって利益率がいいわけですよ。ディストリビューターの多くはオーナー系の華僑ですよね。彼らにとって一番重要なのは、売上規模でもないし、利益率でもない、利益額なんですよね。どれだけたくさんの利益をファミリーのために残せるかということはすごく重要だと考えたときにね、推定売上100億、100何十億ぐらいまでのオーナー、華僑系のディストリビューターと仮定した場合ですね、これは消費財メーカーが質問のあれなので。消費財メーカーはだいたいそれぐらいなので、財閥系とかを除けば。いっても数百億円ぐらいなので、それぐらいの規模のディストリビューターの場合ということで、そこから出たくないと。いや、もっとやれば、もっと利益は伸びるんだよ、ガンガン伸びるんだよと。それはそうなんですけど、じゃあ、その利益を出すために、やっぱり数年の投資、時間とその時間の間にセールスを増やしたりとか、なんとかを増やしたりという、投資が必要になってくるわけですよね。その捻出に躊躇している。それだけ捻出しても、その先に待っているゲインってどうなんだろうということを当然計算していますからね、彼らはね、日本企業よりも緻密に計算していますから。なので、そうなってくると、なかなか足踏みになってしまうと。もうこれ以上やりたくないと、今ここでやっているのが一番いいんだと。例えばね、MTの自分たちの、もうすでに取引のある、やりやすいところのMTだけやって、でも、メーカーはもっとほかのMTもやりたいんだけども、近代小売をやりたいんだけども、そこにいくにはリスティングフィーがかかると。リスティングフィーもメーカーは出さないし、プロモーションフィーも出さないし、ただ「やれ」と言っているからやりたくないとかね。あと、伝統小売を広げないといけない。今、5万店あるものを10万店にする。10万店にするにはやっぱりそれなりの投資がかかると、経営資源を使わないといけない。それはやりたくないと。そうすると、またしんどい。だから、そこで止まっているということになっているという。だいたいこの4つぐらいの要因がこのパワーバランスを崩しているということになるという状況かなというふうに思います。
まあまあ、5つ目あるとしたらね、自分たちのメーカー、自分たちよりも優先すべきメーカーがあるとかね、向こうのほうがより利益率がいいとかね、待遇がいいとかね、そういうことはあると思いますけども、だいたいこの4個5個ぐらいの要因になっていると思うので、この課題をクリアしていくということは重要ですよと。
次回ね、じゃあ、一旦今までね、どうやったら陥らないようになるかというお話だったと思うんですよね。陥るポイントを4個5個ご説明したので、そこを気を付ければ陥らないわけですよね。でも、たぶん多くの製造業の皆さんはもうすでに陥ってしまっていると。陥ってしまっている企業が、じゃあ、どうやってそこから抜けられるかということで、次回お話をしていきたいなというふうに思います。それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。