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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol.2 日本企業の世界競争力はなぜ低下してしまったのか

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

日本企業の世界競争力

世界における日本の競争力はこの25年で著しく低下してしまいました。スイスのビジネススクールIMDが毎年公表する世界競争力ランキングでは、1992年には1位であった日本は、2018年には25位にまで低下してしまいました。2019年の最新のデータでは、更にランクを5位下げ、現在は30位です。1992年当時、Fortune Global 500では日本企業は119社がランクインしておりアメリカに次ぐ数でしたが、現在では中国に抜かれ第3位となり、企業数も54社まで減らしています。このような日本企業の世界競争力低下の理由は何であるのかを問うていくと、二つの外部要因とこの25年間の日本企業のあり方に起因する内部要因に突き当たります。

▼日本の世界競争力(1992年と2018年の比較)

日本企業の世界競争力低下 – 2つの外部要因

日本企業の世界競争力低下には二つの外部要因があると申し上げました。皆さんもお察しになっているかと思いますが一つは中国の台頭です。そしてもう一つは変わらぬアメリカの強さです。

中国の台頭については、25年前にどれだけの人が今の躍進について予想できていたでしょうか。1992年には全くのランク外であった中国企業が2018年には98社もランクインして、日本を追い抜き2位となりました。かつて市場を席捲したあらゆる「Made in Japan」は、「Made in China」に置き換えられてしまいました。特に、白物黒物家電の多くは、世界一の座を中国企業に奪われてしまいました。例えば、まだ比較的記憶に新しいものだと、IBMの「Think Pad」ブランドのラップトップや三洋の「AQUA」というブランドの洗濯機などは、現在中国のレノボとハイアールがそれぞれのブランドを引き継いでおり、それぞれの分野で世界のトップシェアを握っています。

このような家電・エレクトロニクス系の分野だけでなく、アリババやテンセントに代表されるようなIT・ネット・テクノロジー系の分野でも中国は著しい成長を遂げています。世界的なIT企業グーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の頭文字をとってGAFAと称されますが、近年では中国を代表するIT企業群がBATHと呼ばれるようになってきました。これはそれぞれ百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、ファーウェイ(Huawei)を指す頭文字です。アリババ、テンセントは企業の時価総額トップ10に入っており、世界6位のフェイスブックに迫る勢いです。

▼世界の時価総額ランキング トップ10

ちなみに日本企業で最も順位が高いのはトヨタ自動車で、42位1904.67億ドルです。これは、26位の台湾企業、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリングの2410億ドルや、22位の韓国企業、サムスン電子の2721億ドルよりも下なのです。これだけでも現在日本がアメリカ、中国をはじめとしたアジア企業にどれだけ水をあけられているかがわかると思います。多岐にわたる分野で中国は貪欲な技術の吸収を行い、自国の人口の多さをテコにしてこの25年間で著しく成長し、大きく台頭してきました。これが日本の世界競争力が下がった大きな要因の一つ目です。

二つ目の要因は、やはり何と言ってもアメリカの変わらぬ強さです。1992年当時、Fortune Global 500にランクインしていた米国企業は157社です。確かに社数こそ減らしはしましたが、現在でも米国は第1位で128社がランクインしています。この変わらぬアメリカの強さは一体何なのでしょうか?それは1992年当時の157社と現在の128社の中身にあります。25年前、Googleという会社は存在したでしょうか?25年前、Facebookという会社は存在したでしょうか?25年前、UberやAirbnbという会社は存在したでしょうか?25年前のAppleやMicrosoftと、現在のAppleやMicrosoftでどれだけ時価総額が変わっているでしょうか? 

高度成長期の日本は多くの産業分野でより小さく、より良く、より安く作ることでアメリカのたくさんの産業を奪っていきました。アメリカは日本に多くの産業を奪われた結果、イノベーションの力でたくさんの新しいものを生み出していったというのがこの25年間です。Uberなどはまさにそうで、1台の車も1台の運転手も持たずに世界最大のタクシー会社になりました。このようなイノベーションを生み出すことでアメリカはその強さを誇示し続けてきました。

では、日本はこの25年間どうだったでしょうか。Fortune Global 500を見ると、現在ランクインしている企業は25年前にもランクインしています。しかしアメリカや中国でGAFAやBATHといったイノベーションの力で短期間に大きく成長した企業が出現しているのに比較して、日本では残念ながらそのような企業は生まれてきていません。この表を見る限り、唯一の例外がソフトバンクです。日本がこの25年間で新しく生み出した会社というのがソフトバンクただ1社です。日本のこの25年間のイノベーションというのは一体何だったのか、今一度考える必要があるのではないでしょうか。

日本企業の世界競争力低下 – 内部要因

日本企業の世界競争力低下の内部要因についても考えていきたいと思います。日本企業が世界における競争力を大きく低下させてしまった最も大きな内部要因は、日本企業自身が「技術力がすべてである」という考え方にあまりにも固執しすぎてしまったことです。「良いものさえつくっていれば売れるんだ」、「高い技術で高品質のものさえつくっていれば世界はそれを求めるんだ」という考え方にあまりにも固執しすぎてしまった。確かにそのような時代は実際に存在しました。1970年代、80年代、世界に「Japan as No.1」とまで言わしめたそんな時代、確かに技術力がすべてだったのかもしれません。しかしそれから時は経ち二つの環境が劇的に変わりました。一つは競争環境、そしてもう一つは市場環境です。

競争環境の劇的な変化というのは、その昔、日本企業しかつくれなかったものが今では中国や韓国、アジアの企業でもつくれるようになってしまったことです。その結果、「つくる力」よりも「売る力」のほうが優先される市場ができてしまった、この企業の生き残りに求められる要素の変遷、これが競争環境の大きな変化です。

もう一つの市場環境の変化というのは、マーケットが企業に求める品質や技術力の変遷です。その昔、日・欧・米が主たる市場だった時代から、市場もグローバル化しアジア新興国という全く新しい市場が生まれました。そしてこの市場は高品質なものばかりを求めておりません。最低限の品質で十分とするマーケットなのです。

これら競争と市場における二つの環境の変化により、「技術力がすべて」という状況は幕を閉じてしまいました。技術力は、マーケティング活動の中の一部分であるということが今まで以上に明確に表面化してしまいました。つまりは、技術があっても、それを市場が望む製品やサービスに活かせなければ無価値であるということです。それにも関わらず、未だに、只管、技術にしがみ付く、このことが、日本企業がこの25年間で大きく世界の競争力を低下させてしまった理由なのです。

日本企業の舵取りを今一度考える

では、技術力を武器に世界に太刀打ちすることはもうできないのでしょうか。GAFAの中でもものづくり色の強い企業はアップルです。このアップルのイノベーション事例の一つとしてよく取り上げられるものにiPodの開発があります。CDやMDなどの記録媒体を必要とせずに本体に多くの楽曲を記録できる、画期的な音楽プレーヤーである初代iPodが発表されたときのキャッチコピーは「1000曲をポケットに」でした。

このiPodの成功のバックグラウンドにはソニーのウォークマンでの先行事例や東芝のハードディスク小型化の技術があったことは言うまでもありません。しかし、音楽を記録するカセットテープやMDを販売していたソニーは録音メディアが不要になる音楽プレーヤーの開発をためらい、東芝は超小型のハードディスクを生み出したが自身ではその活用法については見当さえついていなかったといいます。新しいマーケットの創造のために過去の資産を捨て去ることを恐れ、また今の技術が今後のイノベーションにどうつながっていくのかを見極めることができないことが、今の日本のガラパゴス化を産み育てているようにも思えます。

デジタルトランスフォーメーション(DX)がますます叫ばれる昨今、日本企業は本当にどの方向に舵を取っていけばいいのか、今一度しっかり考える必要があるのではないでしょうか。間違いなく言えることは、「技術力はすべてではない」ということです。技術力は確かにとても重要な要素の一つです。しかし、それだけでは価値を創造することはできません。その高い技術力を最大限に引き出し価値に変えられるものこそがマーケティングなのです。今、日本企業のグローバル・マーケティングが問われています。