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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 15 シェアを上げられるのは「チャネルビジネス」

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

「輸出型輸出ビジネス」は初期段階の形態

私が定義する「輸出型輸出ビジネス」とは、自社商品を日本の輸出商社 や問屋、もしくは、現地の輸入商社に任せて、もしくは自社で輸出する日 本の港から海外の港までのビジネスを指しています。皆さんが海外展開を始める時に取っかかりとなるのはこうしたビジネス形態になるでしょう。初期段階には必要なビジネス形態であり、私自身も否定するものではありません。ただし、輸出した後の工程、つまりは、現地の中間流通や小売、消費者を一切無視した売り切りの輸出型輸出ビジネスには限界があり、ある一定の売上までいくと、それ以上には伸びません。仮に海外売上比率が3割あったとしても、その3割のほとんどが輸出型輸出ビジネスだとしたら、将来性には問題があります。それは単に港から 港のビジネスをしているだけで、本当の意味でのグローバル・ビジネスとは言えないからです。多くの日本企業はまだ輸出部門や海外輸出担当者を抱えていますが、食品や飲料、菓子、日用品分野の輸出型輸出ビジネスでは、1カ国当たりの売上は、例えば、ASEANで数十億円程度が関の山です。輸出だけでは決して現地シェアの戦いには参入できません。成功している先進グローバル消費財メーカーは、もう15年も前に「輸出型輸出ビジネス」とサヨナラし、「輸出型チャネルビジネス」、もしくは、「現産原販型 チャネルビジネス」に完全に移行しています。皆さんが目指すグローバル・ビジネスとは、現地の企業、もしくは欧米の先進グローバル消費財メーカーとマーケットシェアの争いをして勝ち抜 いていくことです。そのためにはまず、この輸出型輸出ビジネスから脱却する必要があるのです。

目指すべきは「輸出型チャネルビジネス」

「輸出型チャネルビジネス」というのは、ビジネスモデルは輸出でも、自社の商品が、相手国の港から、どのようなディストリビューター(販売 店)を通じ、どのような小売店に、どのように並べられ、どのような消費者がそれを手に取り、買って、使って、食して、何を感じ、リピートして いるのか、いないのかを把握できている状態と定義しています。最終的には、消費財メーカーは後述する「現産現販型のチャネルビジネス」を展開しなければ、究極的にシェアを高めることはできませんが、いきなり何十億円もの投資がかかる現地生産ができるかというと、経営としては、ある程度のシェアが取れなければ現地生産など始められないという判断になるでしょう。やはりステップを踏んでいく必要があるので、「輸出型輸出ビジネス」の次に目指すべきは、「輸出型チャネルビジネス」ということになります。

考えてみてください。日本の消費財メーカーが国内でビジネスをする上で、自分たちの商品がどの中間流通を通じて、どの小売店に、どう並べられて、消費者が何を思ってそれを買って、リピートしているのか、いないのかを理解していないなどということは、絶対にあり得ないはずです。日本では当たり前に行っているチャネル(販売経路)を把握したビジネスを、海外になると「とにかく輸出を増やさなきゃ」と、ひたすら輸出を増やすことに執着して、本来最も重要である消費者を置き去りにしてしまいます。そうならないためにも、まずは相手国の港から消費者までのチャネル構造を理解し、「輸出型輸出ビジネス」から、「輸出型チャネルビジネス」への移行を短期的な戦略に定めるべきでしょう。

最終的には「現産現販型チャネルビジネス」を目指す

「現産現販型チャネルビジネス」とは、その国に工場投資をして、現地で生産から販売までを行うビジネスモデルを定義しています。輸出を行うのは、近隣諸国へ戦略的な展開を行う場合のみです。消費財メーカーにとってはこのビジネスモデルが、海外展開をする上で、最終的には最も理想的な形態だといえます。 アジアで成功を収めている日本の企業、ユニ・チャームや味の素はもちろん、ベトナムのエースコックやインドネシアのマンダムなども、すでにその国においてはチャネルビジネスへの移行を果たしています。チャネルビジネスへ移行を果たすと、最もボリュームの多い中間層を真っ正面から狙うことが可能になります。そして、消費財メーカーにとって、最も重要な4P(マーケティング・ミックス)が、高いレベルで最適化されます。現地で生産できるため、現地の中間層が求める商品を(Product)、現地の中間層が賄える価格で(Price)で販売することが可能になります。また、そもそも現地市場をターゲットにした工場投資のため、現地法人でのマーケティング活動のレベルも上がり、現地の中間層が買いやすい売り場に並べ(Place)、現地の中間層が選びたくなる仕掛けへの投資(Promotion)も向上していきます。段階を経て、最終的にはこのステージにこなければ、狙うべき市場は最大化しないのです。

今こそチャネルビジネスへの転換をはかる時

先進グローバルメーカーと日本のメーカーの違いは、初期段階ではそれほどありませんでした。最初はどの企業も「輸出型輸出ビジネス」からス タートしています。しかしその後、「輸出型チャネルビジネス」へ、「現産現販型チャネルビ ジネス」へと転換し、売上を伸ばしていくのが先進グローバル企業です。いつまでも導入期の輸出型輸出ビジネスからから抜け出せないまま時間ばかりが過ぎているのが大半の日本企業です。

輸出型輸出ビジネスの場合、売上目標未達の言い訳は、「円高が進んだから」と、「現地の経済成長が鈍化したから」の2つです。つまりは、「為替」と「景気」です。また、目標を達成した要因も、為替と景気です。為替や景気といったアンコントローラブルな要素に左右され過ぎるのは賢明とはいえません。それでは、戦略的にその国のシェアを上げることはできないのです。輸出型輸出ビジネスでは、円安とアジア景気で毎年数%の輸出増の成長に甘んじているうちに、チャネルビジネスに投資を行っている欧米メーカーや、現地メーカーにシェアを取られてしまい、もう入り込む余地がないといった状態になりかねません。すでにそうなりつつあります。今の日本の消費財メーカーに求められているのは、いかに「輸出型輸出ビジネス」から脱却して「輸出型チャネルビジネス」に移行するか。そして、そこから本格的な「現産現販型チャネルビジネス」に移行できるかどうかです。

実際に弊社の顧客である大手消費財メーカーにも、現産現販を行っている国と、現地に法人を持たずに日本からの輸出で行っている国との両方があります。 しかし、以前は、チャネルビジネスなどといった発想はなく、流通のことも、小売のことも、消費者のことも、そして競合のことも具体的には理解していないといった状態でした。しかし、一緒になって実態の可視化からはじめて、戦略やチャネルの再構築、そしてオペレーションの最適化を行っていき、徐々にチャネルビジネスへと転換させてきています。結果、過去105%程度の成長だった売上が、110%、120%と上がり、数値的な成果も出ています。今までの積み上げ思考から逆算思考に変わり、何よりもシェアをより具体的に意識するようになりました。ここまで来るとあとは良いスパイラルに突入し、売上はどんどん上がっていきます。