コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 41 属人的な日本企業と戦略的な先進グローバル企業
著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長
「属人的」ではなく「戦略的」なチャネル構築を
この章では、アジア新興国へ事業展開をする上で日本の消費財メーカーに足りないものを、先進グローバル消費財メーカーに照らしてお伝えしてきました。 両者の最も大きな違いは、先進グローバル消費財メーカーはアジア新興国戦略が「中間層獲得」から決してブレないこと。一方で、日本企業は頭ではわかっていながら、どうも戦略が中間層から富裕層にフォーカスしたものにブレていってしまう。できれば日本で売っているものをあまり変えずに売りたいという本音に引っ張られ、いつのまにか中間層は重要だと言いながらも、結果的に富裕層を狙っているという企業は少なくありません。次に、導入期には横軸であるストア・カバレッジを伸ばし、縦軸であるインストア・マーケットシェアを伸ばすことが大切だということ。先進グローバル消費財メーカーはこの2つに徹しています。これが伸びないのは、横軸はチャネルにまつわる問題、縦軸はプロモーションにまつわる問題です。何が問題なのかがわかれば必然的に解決策が見出せるので、この2つに徹することが導入期では最重要となります。さらに、ストア・カバレッジとインストア・マーケットシェアを伸ばすためには、強固なディストリビューション・ネットワークが必要であること。物理的に商品が消費者に行き届かなければ勝負にさえならないので、ディストリビューション・ネットワークがあってこそマーケットシェアを狙えるのです。日本企業は、本来は本社が考えるべき戦略を駐在員の力量に委ね、「とにかく頑張れ!」「走りながら考えろ!」と属人的になりがちです。先進 グローバル企業のように、日本にある本社が確固たる戦略を持ってチャネル構築をすることが最重要課題なのです。
新たなマインドセットが必要
今までの日本企業の多くは、あまりにもモノ(製品/商品)が優れていたため、モノ以外に目がいきにくい状況であったのも事実です。参入戦略だなんて大げさに考えなくても、優れた製品を世に出せば、市場がそれを求めるので、わざわざ戦略を真剣に考える必要もなかったのです。しかし、現在では、多くのモノはコモディティ化し(だれでも作れるようになり)、中国や台湾、韓国をはじめとするアジアの企業でも作れるようになったことで競争環境が激変しました。つまり日本企業は唯一無二の存在ではなくなったのです。もう1つは、同時に市場環境も劇的に変わりました。かつて世界は日欧米の3大陸のみが市場であり、中国やASEANといったアジア新興国は生産拠点であり市場ではなかったのです。それが今では先進国と同じように大変重要な市場に成長したことです。日本や欧米等の先進国における事業展開には慣れていても、新興国といった日本企業にとっては新たな市場への対応力で遅れを取ったのは否めません。先進国とは市場の特性が大きく異なるアジア新興国では、先進国で通じた戦略が、そのまま通じません。だからこそ、新たにマインドセットをし、ゼロから、アジア新興国市場に対する参入戦略を組み立てなければならないのです。今後の連載では、その具体的な参入戦略の立案方法について、詳しくお話ししていきたいと思います。