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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 50 競合の可視化なくして自社の戦略はない

著者:森辺 一樹

日本企業は自社の競合他社を知らな過ぎる

ここからは、先にもお話しした「競合他社の可視化」がいかに大事かについて掘り下げていきましょう。日本企業は、自社の競合他社の情報を知らな過ぎるという事実がありま す。自社の営業担当者が、通常の営業活動の中で得てきた競合他社の情報レベルでは、アジア新興国で太刀打ちできるはずがありません。 シェアを奪い合う相手がどのくらいの脅威なのかを知らなければ、戦いに備えることも、ましてや勝つことなどできるわけがないのです。また、競合他社の実態が明らかになってこそ、自社には何が足りていて、何が足りていないのかが明らかになり、それをもとに戦略を描くことがでるのです。競合他社の可視化とは、戦略を策定する上で大変重要なものなのです。では、一体どんなことを可視化するべきかといえば、主要競合他社の企業情報、財務情報、流通構造情報、流通プレイヤーや役割・立ち位置・機能・マージンなどの情報です。こうした、今後の市場参入戦略において必要と思われるあらゆる情報を収集、分析、整理することが大切なのです。特に重要なのが、同じ日系の競合情報ではなく、多くの場合において日本企業より進んでいる欧米系競合企業や、製品の品質レベルでは劣っていても、汎用品/低価格品の領域で日本企業がまったく敵わない中国や台湾などのアジアのローカル系競合企業を可視化することです。彼らの戦略を ベストプラクティスとして学び、取り入れるべき部分は積極的に自社の戦略に取り入れることが重要なのです。
また特に、主要競合他社の販売面に関する情報の取得は、自社の販売戦略を構築する上で大変有効です。次の図のような項目に関する情報を得ることが理想的です。

競合他社との「チャネル」の違いが実力の違い

 主要競合の可視化においてフォーカスすべきポイントはいくつかありますが、中でもチャネルに関する情報が最も重要です。商品を水にたとえた場合、その水を消費者が来る小売店まで届けるのが水道管です。水道管が小売を経て、消費者に届いていなければ、消費者は欲しくても水を得ることはできません。消費財メーカーにとってアジア新興国における戦いは、このパイプをいかに隅々まで行きわたらせるか、つまり、いかにして幅広いディストリビューション・ネットワークを構築できるかにかかっているのです。主要競合のチャネルに関して可視化すべきポイントは、「チャネル戦略」「ディストリビューション・ネットワーク」「ディストリビューター・マネージメント」の3つです。これらの実態を可視化して、自社のチャネルと比較することで、チャネル戦略上の課題と改善策が明確になるのです。例えば、「チャネル戦略」では、主要競合のチャネル戦略の全体像を可視化します。どのようなディストリビューターを活用しているのか? 近代小売(MT)と伝統小売(TT)は、直接販売なのか、ディストリビューター活用なのか? 規模や売上、強い小売や配荷力、取扱商品やブランド、構成比など、主要競合のチャネルに関する情報を丸裸にし、自社のチャネルと比較することで、自社のチャネルはどこが勝っていて、どこが劣っているのかを明確 にできるのです。

次に、「ディストリビューション・ネットワーク」についてです。主要な競合は、食品/飲料/菓子/日用品等の消費財メーカーの場合、確実に1カ国1ディストリビューターなどにはなっていません。従って、彼らが何社のディストリビューターを活用し、それらがエリア別なのか、小売別なのか、それとも商品別なのか、どのように住み分け、配置されており、2次販売店を含め、どのようにネットワークされているのかを完全に可視化するのです。それにより、主要競合の配荷力がわかり、自社と比較してその差がどれほどのものなのかを掴むことが可能になります。そして最後が、「ディストリビューターのマネジメント体制」です。これは、主要競合がディストリビューターをどのような体制で、どうマネジメント、つまりは管理育成しているのかを可視化することを指しています。例えば、何人の体制で何社のディストリビューターを担当し、既存店と新規店、近代小売と伝統小売をどのように担当、管轄しているのかを明らかにする作業です。これらを自社のディストリビューターと比較することで、体制的な不備や、マネジメントの内容の弱さなどをあぶり出すことが可能になります。