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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 55 フレームワークは革新的な戦略のため

著者:森辺 一樹

すべては「マーケティングの基本プロセス」がベース

ここまでに、「マーケティングの基本プロセス」「参入戦略構築までの6ステップ」「チャネル構築までの8ステップ」「3C分析」「4P分析」と、 様々なフレームワークを活用した戦略構築の方法を説明してきました。「やることが多くて大変だ」と思う方も多いと思いますが、実は、すべては、過去にこの連載でもお話しした「R−STP−MM」の「マーケティングの基本プロセス」がベースになっているのです。どのフレームワークを活用するかは、状況に応じて判断すればよいのです。マーケティング全般の概念として、全体像を見たい時は、「マーケティングの基本プロセス」が最も適しているでしょう。「3C分析」や「4P分析」は、「マーケティングの基本プロセス」の中の一部を抜き出し、インプットをするためのフレームワークなので、例えば、戦略の土台を作りたい、もしくは今一度整理したければ3Cがベターですし、販売戦略に近いものを作る場合は4Pがベターとなります。もっと言えば、より具体的な参入戦略を構築するには、「参入戦略構築までの6ステップ」がベストですし、チャネル構築までを含めるなら、「チャネル構築までの8ステップ」がベストです。

迷ったらすべてのフレームワークを実践

基本的に消費財メーカーがアジア新興国で大きな成果を出すために必要となるのは、ストア・カバレッジを広げることとインストア・マーケットシェアを上げることであり、そのために必要なのはチャネル構築です。 そのため、「チャネル構築までの8ステップ」を最も優れたフレームワークとして用いるケースが多いです。皆さんも自社で、「マーケティングの基本プロセス」で概念をしっかり理解し、今、必要なフレームワークはどれなのかを、ケースバイケースで選択し活用すればよいのです。

◉各項目を具体的数字に落とし込む

迷ったら、すべてのフレームワークを活用したらよいと思います。迷うということは、まだ概念が完全に整理できていないということなので、一度、すべてのフレームワークを活用しインプットすれば、概念の整理にもなり、戦略の精度もより向上すると思います。アジア新興国でストア・カバレッジとインストア・マーケットシェアを上げるためには、参入前に具体的なToDoを明確にしておかなければならないので、こうした様々なフレームワークは簡単に言えば、「どうやれば勝てるのか」ということを具体的に定性、定量で整理するためのツールなのです。

「戦略」とは、課題をあぶり出し対策を打つこと

日本企業は海外事業において、「何が本当の課題か」を理解していないことが多く見受けられます。例えば、インドネシアや、ベトナム市場に進出し、なかなか予定通りの業績やシェアが得られなくて困っているという企業は少なくありません。 その課題はなんなのかと問うと、「市場が未成熟である」という答え以外 に明確なものは返ってきません。しかし、市場が未成熟であることは前からわかっていたことであり、それを答えにするのは間違いです。ベトナムやインドネシアの市場が未成熟 なのが要因なのではなく、その市場に合った戦略を日本企業が展開できて いないことが要因なのです。そもそも、その市場の中間層に合った商品(Product、Price)を開発できていないことが挙げられます。商品がないのでチャネルの話をしても意味がないですが、その国の中間層が買いやすい売場(Place)に並べるためのチャネルも同様に弱いのです。そして、チャネルが弱ければ当然、その国の中間層に選んでもらうための仕掛け(Promotion)は皆無であることは言うまでもありません。

そもそも戦略とは、課題に対する解決策を考えること。つまり、課題が明確になっていなければ何も始まりません。課題が見えないままで戦えば、負け戦になることは目に見えています。「マーケティングの基本プロセス」「参入戦略構築までの6ステップ」「チ ャネル構築までの8ステップ」「3C分析」「4P分析」といった様々なフレームワークを活用し、それぞれの観点からあぶり出した課題を可視化することで、その課題に対する解決策を考えることができ、それが戦略になるのです。アジア新興国で思うようにシェアが伸びない日本企業は、まず自分たちの課題がなんなのかを冷静に見極め判断することから始める必要があるのです。実際に、ある大手菓子メーカーも、自分たちの課題をなんとなくぼやっ とは理解していたのですが、いかんせん確証が持てないので、その課題の解決にむけたアクションに二の足を踏んでおりました。しかし、これらのフレームワークを使い様々な観点で可視化することにより課題を明確にすることができました。課題が明確に見えると、今後はその課題の解決方法を考えるようになります。解決方法が決まれば、今度はその解決方法を実行するようになります。こうしてこの菓子メーカーは、1年以内に課題を解決し、次年度には売上を倍増させることに成功しました。