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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 56 「客観視」することで過信をなくす

著者:森辺 一樹

日本での成功体験による過信

今、海外進出をしている企業、もしくはこれから海外展開を考えている企業は、日本国内の市場では確固たる実績を確立し、大きな成功体験を持つ企業だと思います。その実績と成功体験が海外ビジネスでは時として邪魔になることがあるのです。どういうことかというと、日本企業の持つ成功体験は、アジア新興国では、時として「過信」に繋がることがあるのです。「我々は世界でも稀に見る高い趣向を持つ消費者がいる日本市場で鍛えられた実績がある!」であったり、「我々の製品は、世界でも最も先進的な市場で通用する高い品質を持つ!」「だから、アジアの市場へ行ったって、少々価格は高いかもしれないが、良いものは必ず理解され売れるはずだ」といった考えが根強く残っているのです。それゆえに、事前の調査や戦略構築に労力を割くことなく進出してしまい、出てから海外ビジネスの難しさに直面し、収益を上げるまでに数年、場合によっては10年程度を無駄にしてしまうのです。

自社は客観的に、競合他社は深層まで可視化する

まずは、「自社に関して、客観的情報を取得する」ようにしていきましょう。先にも述べた通り、日本企業は、日本での大きな実績と、世界的に見ても著しく高い技術力や品質の優位性があるため、自分たちの能力を過信しすぎる傾向にあります。もっと言うと、過信していることに気がついていないケースもよく見られます。それは、自社を主観的にしか見ることができていないからです。内からではなく、客観的に外から見るということが重要なのです。むしろ、自社を自社自ら可視化、判断するのではなく、第三者の目によって可視化することで客観的に判断することが望ましいのです。例えば、自分たちの品質の高さが最大の武器だと主観的に思っていても、アジア新興国の市場では、そんな過剰品質はなんの武器にもならず、単なる足かせにしかならないなどは、客観視しなければなかなか見えてきませ ん。つまり、主観的な状況では、「品質の高さ = 絶対的な正解」なので、 それを調節した状況は、内面からは見えてこないわけです。次は、「競合の深層的情報を取得する」ことです。一言で言うと、誰でも容易に取得ができるような表面的情報だけに頼るのではなく、入手が困難な本当に価値のある情報から物事を判断する必要があるのです。日本企業の多くは、欧米やローカルの競合情報をほとんど持っていません。持っていたとしても、それは自社の営業マンがフィールドで拾ってくる情報ばかりです。そのような表面的な情報では、競合のことを深く理解 しているとは言えません。また、時として、自社の営業マンがフィールドで取得してくる情報は、自分にとって都合のいい情報に偏っていることすらあります。

このように、自分たちが戦う相手の情報に関することも、あまり重要視されてこなかった背景には、やはり、自分たちの日本国内における実績、高い技術力や品質に対する大きな過信が存在するのです。アジア新興国は必ずしも品質がいいものが売れる市場ではないのです。先進グローバル消費財メーカーはもちろん、品質レベルが劣るローカルメーカーであっても、強豪であれば侮ることなくしっかりと調査、研究する必要があるのです。

〜コンサルタントの活用について〜
ここまでの連載では、参入戦略立案の具体的方法ということで、概念から戦略立案のためのフレームワークまで一通り解説をしてきましたが、先にもお話しした通り、戦略とは、「これから直面するであろう課題をあぶり出し、その課題に対して対策を打つこと」です。
多くの日本企業がそうである通り、課題が見えていなかったり、課題に直面することに気づけていなかったりする状態で戦うから思った 通りの事業展開ができない、もしくは、シェアが上がらないのです。すでに直面している課題ではなく、これから直面するであろう課題をいかにあぶり出すか、いかに可視化するかが重要なのです。アジア新興国市場におけるビジネスは、日々、様々な課題と直面します。従って、課題に直面してから対策を考えるのではなく、おおよそ、直面するであろう課題は事前にあぶり出し、事前に対策を講じておくことが重要なのです。
これを経験もノウハウもない自社だけで行おうとしても難しい話で、外部の専門家やコンサルタント活用の価値は、こういったところにこそあります。すでに多くの経験則やケーススタディを持つ外部を活用することは、その費用が少々高額だったとしても、結果として時間を買い、ノウハウを買うことで安上がりになるのです。日本企業は、この外部の専門家やコンサルタントをうまく利用するということに関しても、欧米の先進的グローバル企業と比較して遅れていると言えます。

我々の大手の顧客でも、海外、特に新興国市場の戦略においてコンサルタントの活用に慣れている会社はそれほど多くありません。国内の経営企画部門などでは、国内事業に強いコンサルタントを使ってい ても、事業部門の海外担当チームや、海外事業部門では自前主義とい う日本企業はまだまだ少なくないのです。日本の製造業はこのあたりの感覚もグローバルで見るとかなり遅れていると言わざるを得ません。そもそも新興国に出ていないのですから、圧倒的にケーススタディが少ないのは言うまでもありません。ケーススタディが少ないということは知識と経験が少ないということです。知識と経験が少なければ当然、将来起こり得る課題を事前にあぶり出し対策することができません。これに気づいた企業が皆一様に言うのは、外部の専門家を使ったほうが結果として早く安上がりになったということです。なぜなら、リスクを事前に察知し備え、成功まで のスピードが格段に上がるからです。
コンサルタントなどの外部活用は使いようです。「モノ(Product) さえ良ければすべて良し」の時代が長期にわたり続いたので、この概 念を変えるにはもうしばらくかかるのかもしれません。しかし、アジア新興国の企業がこれだけ成長してきた現代において、もう猶予がないのも事実です。