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第229回 新興国市場は小売が近代化してから進出するのではダメか?(消費財)

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、ASEAN市場、「消費財メーカーにとってのASEAN市場は小売が近代化してから攻めていくということではダメなのか?」ということについてお話をしていきたいと思います。

これはマーケットに本格的にエントリーする時期の話をしていて、消費財メーカーにとって小売で商品を売っていくわけですから、この小売が新興国の場合、伝統小売で大半を占めていて、伝統小売というのは当然近代化を徐々にしていくわけなので、小売の近代化がほぼほぼ完了して、大半の小売が完全に近代化した後に市場にエントリーをするということでは、参入戦略上、そのタイミング、参入戦略のタイミング的にどうなんですか?ということについてお話をしていきたいと思います。これが分かると、今日お話することを理解していただけると、自分たちが本当にどういうタイミングで参入すればいいのか、いつ参入することが重要なのか、いつ参入すると失敗してしまうのか、いつ参入すると成功するのかということが学べると思いますので、今日は「新興国市場は小売が近代化してから進出するではダメなのか?」ということについて一緒に学んでいきましょう。

新興国なので、別にアジアに限らず、アジア新興国が私の専門ですけども、インドももちろんアジア含めてアフリカ、それからメコン経済圏、こういったところを含めて新興国、世界中の新興国、ブラジルもそうですね、そういうところを想定してお話をしていきたいと思いますが、いずれの新興国も、新興国の度合いが強ければ強いほど小売というのは伝統小売が一般的である、主流の小売は伝統小売です。

ちょっと近代小売と伝統小売の整理だけ最初にしておきますけども、スライドを出してもらって。近代小売というのは英語でModern Trade、MTというふうに訳されていますけども、基本的にはスーパー、デパート、コンビニ、ハイパーなどのPOSレジの置いてある近代的な、われわれが日本で慣れ親しんでいる小売を近代小売と言って。一方で、まだパパママがやっているような、いわゆる一昔前の日本の駄菓子屋みたいな、こういうところが伝統小売、Traditional TradeでTTというふうに言われています。それが世界の、中国はもう新興国ではないですが、ある程度の国、主要な国をまとめると、アジアを中心にインド、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア、中国とありますが、中国はもう6割ぐらい小売の近代化が進んでいるので、伝統小売というのは本当に第二級都市以下の地方のほうに行くとまだ残っているということですけども。インドなんていうのはまだ近代小売の比率2%なんですよね。ASEANの中で今、日本の消費財メーカーが最も注目しているベトナム、インドネシア、フィリピン、VIP、ここでもやっぱりまだ2割ぐらいしか近代小売はなくて8割は伝統小売ですということなわけですけども。

これがどんどん、どんどん、中国のようになっていくと。日本とかって言うともうほぼ100%近代小売なので、どんどん、どんどん、近代化していきますよと。そうすると、「近代化してから出て行っても遅くないんじゃないですか?」と、こういう質問を結構番組にももらうし、Podcastにもらうのが多いですかね。あと、セミナーをやっても、こういう質問って必ず出るんですよ。「森辺さん、伝統小売の攻略は消費財メーカーにとって重要だと言うけども、小売が近代化してから出ればいいじゃないか。どうせ私たち日本のメーカーがつくっているものというのはある程度プレミアムなので、伝統小売ではなかなか売りにくい。そうなってくると、小売が伝統小売がなくなって近代化してから出るんじゃダメなのか?」ということをおっしゃられるんですけども、結論から言うと、「ダメですよ」ということなんですよ。なぜダメかと言うと、小売は、じゃあ5年10年で近代化するかと言ったら絶対しないんですよね。基本的には、私、1980年代にASEANに、シンガポールに住んでいましたけど、当時、タイに行ったり、インドネシアに行ったり、いろいろしましたけども、当時の伝統小売の数よりも今の伝統小売の数のほうが多いんですよね。伝統小売の数そのものは増えています。ただ、比率的には今後どんどん、どんどん、近代化していくし、それは間違いないんですよ。ただ、その時間軸の話で。どれぐらいのスピードで近代化するんだと。これが5年後10年後に近代化するんだったら、まだ近代化してから出て行ってもいいかもしれない。ただ、30年後40年後だったらどうなのかと。30年40年待つんですかという話になるし、じゃあ、30年40年待って、さあ、私たちはプレミアムの日本企業、小売が近代化したのでようやく参入しますと言って参入して、それまで散々苦労してやってきた欧米の競合がいる中で、日本企業がいきなり出ていって受け入れられるかと言ったら、絶対に受け入れられないので、これはやっぱり今から伝統小売の攻略をしないとダメだということが結論なんですけども。

ここで重要なのは、なぜ私がすぐに伝統小売は近代化しませんよ、30年40年50年ぐらいの時間軸がかかりますよと申し上げているのかと言うと、小売は小売単体では近代化しないんですよ。日本の企業からそういう、日本のビジネスパーソンからそういう質問を受けるというのは、日本の戦後の劇的な近代化、日本は急激に小売が近代化したんですよ。これは2つ理由があって。1つはコンビニ形態と日本の国民性が非常にマッチしたということがあって、これは小売の近代化を加速させたというのが1つ。もう1つは、日本も小売だけが勝手に近代化したんじゃなくて、その他のインフラが同時に急速に全国、北海道から沖縄まで津々浦々、同時並行的に近代化したから、これだけ日本列島すべての小売が近代化したということで。要はどういうことかと言うと、道路、物流インフラ、それからシステムのインフラ、ガス・水道、基本的ないわゆる生活インフラですよね、こういったものを小売は必要とするので、こういったものが近代化されて初めて小売も近代化する。特に物流はもう非常に重要。じゃあ、今の新興国を見たときに、小売が単体で勝手に近代化することはできたとしても、じゃあ、物流はどうなんだ、システムはどうなんだ、ガス・水道・水・電気、こういった生活インフラもどうなんだということを考えたときに、これじゃあ今の新興国、ASEANだけ見ても、5年10年で基本的なその他のインフラが近代化して小売も近代化するなんていうのは、もうこれは考えにくいですよね、過去の歴史を見てもね。そうすると、日本で起きたあの小売の近代化というのは、やっぱり奇跡的な劇的な経済成長があってそこに乗ったので。確かに、今の新興国も劇的な成長はしているものの、伝統小売が本当に5年10年でなくなるような速度ではないので、これはやっぱり引き続きある程度のボリュームで残っていきますよということをしっかりと捉えないといけない。

もう1つあるのは、今後考えていかないといけないのは、デジタルシフトによって、この近代小売、伝統小売という議論だけじゃなくて、もう中国は完全に始まっていますけども、ここにいわゆるEコマースというものが入ってきていて。中国は非常に特殊なので、別で考える。そうしたときに、当然、新興国にもEコマースという新たな流通が入ってくるんですけども、今のところASEANですら消費財、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財、FMCGにとってこのEコマースを通じて流通している量や額というのは本当に数%に満たないので、それってやっぱり物流の問題が1つ大きくあるわけなんですよね。なので、ここはもうしばらく様子を見ていくということをやっぱりしていかないといけないので、ここもしっかりとウォッチをしながら考えていく必要があると。

ただ、いずれにせよ、この伝統小売が瞬時になくなるかと言ったらなくならないので、今からやっぱり伝統小売の攻略に日本の企業は投資をしていかないといけない。同時にデジタルシフトによる新興国のEコマースの現状がどう変わっていくのかも予測をしていかないといけない。伝統小売で売るためには近代小売はもうマストで獲っていかないといけないので、この3つの流通を同時並行的に進めていくということが大変重要になってくるんじゃないかなというふうに思います。

それでは今日はこれぐらいにして、また皆さん次回お会いいたしましょう。