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第371回 【Q&A】伝統小売が近代化してから出るではだめか? その2

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も前回に引き続き、「伝統小売が近代化するまで待ってから参入するのではダメですか?」というお話をしていきたいと思います。

前回、今の日本の消費財メーカーがアジア新興国市場で置かれている現状、特にASEANで置かれている現状について説明をして、あと、近代小売と伝統小売の比率みたいなお話をしたと思います。結論を言う前に、今の現状の背景を説明する中で、ちょっと私の話が長くて終わっちゃったので、今日は実際にその結論のお話をしていきたいんですが。「伝統小売が近代化するまで待ってから参入するのではダメですか?」と。結論を先に言うと、ダメです。それには2つの理由があって、2つの理由でダメですよということを今日は解説をしていきたいなというふうに思います。

1つ目の理由なんですが、伝統小売が近代化するまでの時間軸というものにフォーカスをしていかないといけなくて。これ、5年10年で伝統小売が一掃されてすべて近代化するのであれば、私はそれでもいいと思うんですよね。待ちましょうよと。伝統小売で今から苦労しても、苦労して苦労して苦労して、出来上がったときにはもう小売は近代化しているので、近代化してから出ても一緒ですよと。5年10年という時間軸であればね。

けど、私の予測では、過去の伝統小売を見てきた中でね、過去数十年の伝統小売の増減や成長を見てきた中で、向こう5年10年で伝統小売がほぼ近代小売に置き換わるなんていうことは、ASEANではまず起こり得ない。むしろ、伝統小売が新たなステージに到達をして、大きくトランスフォームする。この話はちょっと2個目の理由なのであとでお話するけど、していくだろうなと思っているので、基本的に伝統小売が5年10年では近代化しないですよと。もし仮に近代化するのであれば、数十年の時間軸がかかるでしょうというのが私の予測です。なので、数十年待って、何もしないで待って、「さあ、近代化したから、今から僕たち、日本の消費財メーカー、参入します」って入っても、結局、相手にしてもらえないですよね、市場から。だって、やっぱり消費財というのは、どれだけたくさんの人に、どれだけ速い頻度で、繰り返し毎日永遠に使い続けてもらうかということがすごく重要で、それを数十年やり続けてきた先進グローバル企業とか、ローカル企業もどんどん今、成長しているわけですよね、食品メーカー、消費財メーカー。そしたら、もう、そういう市場に市場が取られて、完全に市場ができあがってしまって、そこからあとから入ってきたって、もう無理ですよね。「品質が良いんです」と言ったって、いやいや、もうその数十年後にはその企業だってもう十分品質の良いものをつくれるので、そんなようなことになってしまう。

例えば、洗剤をつくっていても、同じ洗濯洗剤、白くなるんですよね。これが圧倒的に違えば価値は見出せるんですけど、別に同じように白くなる洗剤なので、それぐらいの差では数十年後に参入したってもう難しくて。例えば、「いや、この洗剤はスプレーでシュッと吹きかけたら洗濯機に入れる必要ないんです」というぐらいの、もう圧倒的な製品性がないと数十年のブランクを取り戻すなんていうことはできないので、基本的には「待ってから参入するではダメですか?」って、「ダメですよ。待ってから参入したら参入できないですよ」ということが1つ目で。

じゃあ、なぜ伝統小売が近代化するのに数十年かかるかと、森辺が言っていることは本当なのかと、その予測はどうなんだ?ということのお話をちょっとしておいたほうがいいと思うので。5年10年でなぜ伝統小売が近代化しないかというのはね、理由が2つあって。小売って、小売単体で近代化するんじゃないんですよね。日本の、いわゆる小売業界に関わっている人たちは、小売は近代化していくという印象、イメージを非常に強く持っていると思うんですけど、これは、日本ってコンビニを中心に劇的に増えていったんですよね。世界でも真似を見ないようなスピードで小売が近代化していって、そこにコンビニという形態がわれわれの国民にものすごく合致して、一気に伸びていったという背景があって。これが、同じようなことがASEANでも起こるというマインドがどこかにあって、そういう誤解を持ってしまうんですけど。

なぜ日本がこれだけ小売が近代化を急速にしたかというのは、1つは、日本というのは北海道から九州まで全国津々浦々同時にあらゆるインフラが近代化した。例えば、ガス、水道、道路、物流、システム、こういった基本的インフラが近代化しない限り、小売というのは絶対近代化できないんですね。これは、小売だけが日本は近代化したのではなくて、こういう物流網、ものすごく重要、それにシステム、小売のシステムですね、それからガス、水道、電気、こういう基本的なインフラ、あらゆるものが近代化しなかったら、小売というのはその上に乗っているから、近代化なんか絶対にしないんですよね。

じゃあ、ASEAN、VIP、ベトナム、インドネシア、フィリピンを見たときに、今でも首都はあれだけ渋滞をしていて、道路のインフラだって、日本ほど全国津々浦々、高速道路でつながっている状態ではなくて、今まさにそれをつくっているような状態。電気だって、まだ電気が突然計画停電するような地域もある中でね、小売だけが勝手に近代化するなんていうのは、もう構造的にあり得ない。そうなってくると、今の、例えばVIPだったらVIPでもいいですよ、VIPのGDPの成長率とか、国の税収ですね、年間の税収、それがインフラ事業に投資される割合とかを見ていくと、数十年はかかるでしょうね、日本と同じように全国津々浦々近代化していくのは。そうすると、小売の近代化もそれぐらいかかるよねというのが私の見立てでございます。

今日もだいぶ時間が経っちゃったのでこれぐらいにしておきますけど、2個理由のあるうちのもう1つは、次回お話をしていきたいと思うので、また次回お会いいたしましょう。