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第437回【本の解説】「属人的」ではなく「戦略的」な先進グローバル企業

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森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺一樹でございます。今日も引き続き、この『グローバル・マーケティングの基本』 日本実業出版社から私が去年出した本ですが、この本の解説をしていきたいと思います。

今日は第2章の最後です。2-15、117ページでございます。「「属人的」ではなく「戦略的」な先進グローバル企業」ということで、欧米を中心とした先進グローバル企業がいかに戦略的で、日本の企業がいかに属人的だということを少しお話をしていきたいなと。副題で「人で回す日本企業と、仕組みで回す先進グローバル企業」というふうにありますが。皆さんも何となくお気づきなのではないかなというふうに思うんですが。僕も好きなんですけどね、精神論とか根性論とか、古き懐かしい昭和の匂いのするこの日本企業のやり方。そのやり方が十分通用していた80年代90年代までは非常に良い時代だったなというふうに思うんですが、やはりこの「属人的」というものは多くの負を生んでいるし、「戦略的」にならないと昨今のグローバル競争は勝てない。今、ASEANの企業のほうがよっぽど戦略的だったりもするので。日本企業もいち早く戦略的になっていく必要というのがやっぱり本当にあって。それにはマインドセットを大きく変えるということがすごく重要で、日本企業のマインドセットを変えないとなかなかこれ「属人的」から抜け出せない。「戦略的」になれない。基本的にはすべての判断を合理的に行うということを考えなきゃいけなくて、そこに感情とか精神論の一切は持ち込まないということがやっぱりすごく重要で。欧米の企業がいかに「戦略的」なのか、その「戦略的」な結果、高いシェアを獲得しているというのが、もちろんすべての欧米企業ではなくて、先進的なグローバル企業と言われる人たち、企業たちなわけですけども。そのことについてちょっと今日は説明をしていきたいと思います。

スライドをお願いします。このスライドなんですけども、1、2、3、3つのことで非常に戦略的なんですよね、欧米の先進グローバル企業。ここで言っている欧米の先進グローバル企業というのは、P&Gであったり、ネスレ、ユニリーバを言っているんですが。この先駆者メリットを最大化させるための早期展開ということで、前回デファクト・スタンダードの重要性をお話しましたけども、そのことを科学的に理解しているのが1つ大きくありますよね。物理的に早く出るということが、デファクト・スタンダードをつくれる最も早い方法。どれだけ早く出て、市場に衝撃を与えられるか、インパクトを与えられるか。その消費者に与えた衝撃が、結果、デファクト・スタンダードになるので、この早期展開、先駆者メリットというのは本当に重要だということは頭でしっかり理解しているんですよね。早く出て失敗するということを考えるよりも、早く出て衝撃を与えるということのほうがプライオリティが高いという説明をしましたけども。

それを考えたときに、もう1つあって。僕、これは本当に衝撃だなと思ったんですけど、いろんな先進グローバル企業をインタビューしていくと、共通の声が聞こえてくると。なぜ同じ企業なのに、日本企業と先進グローバル企業、こんなに動きが遅い日本企業と早い先進グローバル企業、なぜあなたたちはそんなに早く動けるんだと。結局これってミスに対する概念なんですよね。日本ってミスをおかした人を袋叩きにするみたいな、そういう印象がどうしてもあって。ミスをおかしちゃいけないんだ、ミスは悪だと、リスクはだめという概念が非常に強い。一方で、先進的なグローバル企業というのは、ミスなくして成功なんて絶対あり得ないと。誰よりも早くそれをやって、誰よりも早く失敗をするんだと。そして、誰よりも早く失敗をすると、誰よりも早く学んで、誰よりも早く学ぶから誰よりも早く成功するんだということをロジックとして理解しているし、それを個々の人も理解しているし、組織もそれを認めているんですよね。だから、リスクが取れるという。リスクを取るということが悪じゃないし、それによってミスをする、失敗をしてしまうということがしっかりとラーニングをする失敗であれば、それに対して袋叩きにするような文化ではなくて。そういう概念がやっぱりしっかり浸透しているよね。それは早く動けるねと。日本企業の場合、早く動きたいけど、どうしようと、これミスしたらどうしようと石橋叩いて叩いて叩き過ぎて石橋割っちゃうみたいな表現、よく使われますけども、そういうことにまずなるわけですよね。だから、ここの1番のまず考え方が1つです。

あと、2番の市場規模を最大化させるための明確なターゲティング、消費財メーカーにとって一番重要なものは何ですかと。中間層です。爆発的に拡大する30億人の中間層です、アジアで言ったら。これを掴んだほうが勝ちなんですよ。消費財なんていうのはたかだか数十円、数百円のものを売っているわけですから、1回買うなんていうのは誰でもできる。どんなに所得が低くても1回ぐらい買えるわけですよ。でも、そうではなくて、いかに速い頻度で、いかに繰り返し、いかに永遠に買い続けてもらうかということがビジネスの肝なわけですよね。それを分かっているので、中間層をターゲットにする。より世界80億人のうちのどれぐらい、60億ぐらい、貧困層を除いて40億50億ぐらいは中間層なわけですよね。60億ぐらいかな…。50~60億ぐらいが中間層なわけですよ。これを獲りにいくということをもう最優先課題にしているので、ターゲティングが非常に明確。で、それを獲るためにどうすればいいの?ということを考えるので、ディストリビューターどこにしようとか、販売チャネルどうしようとかっていうことが戦略的に組まれていくんですけど。日本企業の場合は、「とにかく海外に出るぞ、でかい市場だ。ん? でも、よく分からないから強いパートナーが必要だよね。誰と組めばいいんだろう。でかいところだ。財閥系だ」と。ターゲットよりも、誰に売るかよりも、誰と組むかみたいなところが優先されてしまっていて、いや、それ順番違いますよねと。誰に売るかということが非常に重要で、誰と売るかなんていうのはその誰に売れるやつと売ればいいので、そんなことはあとです。誰に売るかということがすごく重要で、ターゲティングがふにゃふにゃしていると。自分たちの商品は高い原材料と高い技術を使った良いものなので、高く売ります。だから上位中間層とか富裕層にまずは売り始めましょう。でも、富裕層に売るんだったら、G7で商売したほうがまだいいよねと。なぜアジア、ASEAN、新興国に出るんだっけ。新興国の最大の魅力って爆発的に拡大する中間層ですよねと。そう考えたときに、やっぱりターゲティングということが明確になっていない。ターゲティングが明確になっていない、誰に売るかが明確になってなくて、誰と売るかにばっかり神経がいくと。どう売るかということも自分たちはよく分からないので、誰に売るかのこの誰に考えてもらう、誰主導でやるみたいな。それがいけないよねって気付いてきている企業が、今、戦略の再構築、チャネルの再構築ということをここ10年やって、ようやく頑張りだしているという、そういう状況だと思うんですけども。この2番もそうですと。

スライド3つ目の強固なチャネル構築ということで。結局、その中間層、誰に売るかということが非常に重要で、そのために誰と売るかというのはあるわけなので。誰に売るって、ASEANの場合は30億人の中間層に売るためには、これ1カ国1ディストリビューター制でやっていたって絶対売れないよねと。到達できないよね。B2Cの世界で言ったら伝統小売、数十万店、数百満点の伝統小売、攻略できないよねと。だからこそ強固な販売チャネルが重要で。ディストリビューターが重要なんじゃなくて、販売チャネルをつくらないといけない。こうしたときに日本企業と先進グローバル企業の販売チャネルのストラクチャーを見比べたら、もう圧倒的に先進グローバル企業の販売チャネルのストラクチャーのほうが美しい。もう理にかなっていると。なるほどね、これだったら伝統小売20万店確保できるよね。でも、一方で、日本企業の場合は、あれ、これって本当にできるの? できている姿が見えてこないんですね。ストラクチャーが。だから、チャネルが非常に弱いと。そこに対してはあまり目が向けられず、どちらかと言うと、商品、良いものをつくると、市場に合ったものを、みたいなところに突き進んでしまうので。確かにメーカーである限り、商品は非常に重要なんだけども、メーカーが…。消費者のインサイトも重要、もちろん重要です、絶対重要なんだけども、日本企業は少々チャネルの力で押し込んでいく、プロモーションの力で押し込んでいくと、「私たちが良いと言ったものがいいんです」というぐらいの勢いでやっていかないと、なかなかやっぱり良いものにはならないんですよね。

欧米の先進的なグローバル企業はすべてが戦略的で、逆算思考なんですよね。日本の企業というのは積み上げ思考。とにかく目の前にあることをコツコツ、コツコツ積み上げて頑張ってやっていけば、きっとこの階段の上には素晴らしい世界が待っているはずだって。階段上の世界なんて見えないのに、希望的観測、性善説でコツコツ目の前のことをやるんですよね。性善説だから、ちゃんと一歩一歩行けば、その上にはきっと天国が待っている。でも、待ってないんですよね。欧米の先進的なグローバル企業の場合は、まずばーっと俯瞰して、上から見てみて、「あっ、上には本当に天国があるよ、パラダイスだ」と。「ようし、じゃあ、あの下に戻っていって、あの上のパラダイスに最短で行くにはどうしたらいいのか」ということを逆算でやっていくので戦略的になれるという、この思考の違いはね、非常に大きくて。日本みたいにある程度ね、コツコツやっていって上にパラダイスがあるというやつはね、何となくあるんですよ。日本の場合はあることが分かっちゃっているから、潜在意識の中でのパラダイスが本当のパラダイスなんだけども。海外に行くとね、そこが全然違ったりするんですよね。特に新興国市場は。良いと思っていてコツコツやってきたのに、その先にが「良い」がない。だから、先に上を見に行って、そして下に戻ってきて、「あの上に最短に行くのはどうやったらいいのか」ということを逆算するということがやっぱり重要で、積み上げ思考よりも逆算思考が重要ですよということでございます。

今日もペラペラと長い話、大変恐縮でございます。これぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。