第545回 FMCG 伝統小売の未来「存続」
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も引き続き、FMCG、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財メーカー向けの話をしていきたいと思います。対象国はASEANを中心としたグローバルサウスなどの新興国市場になります。今日のお話なんですが、VIPに代表されるような伝統小売のお話をしていきたいと思うんですけど、伝統小売の未来のお話をしていきたいなというふうに思っております。
ASEANに限らずね、これは南米に行っても、アフリカに行っても、インドに行っても、新興国になればなるほど伝統小売というのは必ず存在して、それが近代小売の何倍も、もしくは何十倍、何百倍もの数がそこには存在して、近代小売だけでは儲からない、でも、近代小売はマストハブでやらないといけない、その上で伝統小売をどう攻略するかということにずっと日本企業というのは課題を抱えてきていて、日本の消費財メーカーはですね。中には近代小売は得意ですと、近代小売のビジネスをやりたいですと、伝統小売はややこしいと、なぜならばディストリビューション・ネットワークをつくらないといけない、販売チャネルを強化しないといけない。伝統小売の攻略がなかなかうまくいかないので、自分たちの商品もまた伝統小売向けに合わせていく、現地適合化させていくことが難しいので、中には伝統小売が近代化してからやればいいじゃないかという、こういう議論があったんですよね。もしくは伝統小売はコンビニ化されていくなんていう議論が結構盛んに行なわれていて。でも、ここに来てそうじゃなくなった。私はもうずっと前から、そうはならないですよ、伝統小売は永遠に、永遠にと言うとちょっと大げさですけど、少なくとも数十年存続し続けるというふうにずっと申し上げてきているんですけども、だから伝統小売をやらなきゃいけないというふうに申し上げてきているわけなんですけど。ここに来て、伝統小売がなくならないよねということがかなり確実視されてきたんですね、ここ数年で。特にビフォーコロナとアフターコロナでその様子というのはかなりはっきり変わってきていて、そんなことで今日は伝統小売の未来ということについてちょっとお話をしていきたいというふうに思っています。ちょっとね、前置きが長くてすみません。
スライドをお願いします。伝統小売の未来ということで、まずね、「存続」についてお話をしていきたいんですが、なぜ伝統小売がなくならないのかということについていくつかの理由があって。まず、伝統小売っていうのがどういう存在なのかっていうことを考えないといけなくて。日本だと、駄菓子屋というのは淘汰されて、いつしかコンビニに代わっていったと。日本には急激な小売の近代化というのが起こったんですよね。それと重ね合わせるので、ASEANや新興国市場も小売は近代化していくものだという常識が皆さんの想像の中心にあったわけなんですけどもね。でも、じゃあ、なぜ日本で小売がこれだけ近代化したかと言うと、これは小売だけが単体で近代化できるものではなくて、基本的には道路インフラ、交通インフラ、それからIT、物流、あらゆるインフラが同時並行的に近代化するから、その上に乗っている小売も近代化できるという話なんですよね。あれだけ渋滞が解消されない、道が悪い、遠方、地方にはなかなか行くのが大変だという中で、小売だけが近代化するなんていうのはあり得ないと。だから、首都だけの小売が近代化するとかっていうことはあったとしても、全土に近代化が見られるなんていうことはなくて、そして、2億7,000万人の人口のうちのね、大半が首都に住むなんていうことは現実的に物理的にあり得ないわけで、インドネシアでね。そうすると、やっぱり食品とか日用品というのは数が勝負、どれだけたくさんの人に売れるかということが勝負なので。そうすると、やっぱり伝統小売というのはずっとなくならないので、重要な存在にあり続けるということなんですよね。これが1つ。あと、さらに言うとね、各国の国土交通省の都市計画みたいのを見ていくと分かるんですけど、向こう10年15年20年の間にそんなに近代化しないんですよ。高速道路はそんなにつくられないんですよ。それはもう分かりきっている話なんですよね。そうすると、物流が大変だな、デリバリーが難しいなとかっていうことが分かってくるので、じゃあ、小売だけが単体で近代化することってないなということが容易に想像がつくので。まずは小売単体が近代化していくのではないですよということが1つの要因。
2つ目の理由は、例えばインドネシアで470万店の伝統小売がありますと。実はこの伝統小売というのは毎年3万店減っているんですよ。毎年3万店。「やっぱり減っているじゃないか、森辺さん」と、減っているんですよと。なんですけど、もうすでに470万店あったら、毎年3万店減ったって、全部なくなるのに190年かかるわけですよね。それが倍のスピードだったとしたって95年とかかかっちゃうわけですよ。さらに3倍のスピードでいったって65年とか、それぐらいかかってしまうわけなんですよね。そうすると、やっぱりこれはなくならないというか、60年とか50年伝統小売をやらなかったら、もうその国をやらないのと一緒なので、基本的にはなくなりませんよというのがこの2つ目の理由。あと、われわれとASEANの人たちの思考というのは大きく異なっているということを理解する必要があって、われわれというのは何か大きな組織で中央が決めることを同じようにコピーをしてやるということに非常に長けている民族だと思うんですけど、むしろそれを好む、心地いいと。それが均等に品質や、サービスの提供品質とかね、売っているものとかっていうのがね、統一化されていて、非常に良いというふうに捉えていると。まさにフランチャイズビジネスですよね。フランチャイズオーナーがフランチャイザーの中央の指導のもと事業を展開していくと。でも、伝統小売のおじちゃんおばちゃんたちというのはそんなことはあまり求めてなくて、自分たちが今日食べれるだけ今日稼げたらいいなという、そういうイメージなんですよね。中央集権型の事業をやっていて誰かに構われるよりも、分散型で好き気ままにやっていきたいと、そのほうが気楽でいいという人たちが非常に多いわけですよね。そうすると、国民性とかっていうことを考えたときに、この近代化していくということがすべて良いとはなかなか限らないというのが2つ目の理由ですね。
3つ目の理由。3つ目の理由はね、われわれが思うほど伝統小売というのはじゃまな存在ではなくて、地域、業界、社会、行政、こういったものに守られているんですよね。フィリピンなんかの例が非常にいいんですけど、パンデミックの間に、フィリピンって80万店伝統小売があるんですけども、パンデミックの間に10万店以上の伝統小売が増えたっていうんですよね。15万店と言ったかな。フィリップスターというネットメディアが公表しているデータで、私どもでまだ裏取り確認できていないのでちょっとあれですけど、増えたと。なぜかと言うと、行政がいわゆる小規模事業者支援を散々やったし、ローンをやったし、フィリピンって高利貸しがたくさんいるので、高利貸しに手を出して事業が回らなくならないようにしっかりといわゆる低金利のローンをやるし。あと、業界自体も伝統小売を守っている。例えば、フィリピンってピュアゴールドから伝統小売のオーナーが商品を仕入れるための事業モデルがしっかりピュアゴールド側から提供されていたり、インドネシアのアルファマートがフィリピンに進出しているんだけど、アルファマートも伝統小売向けの事業をやっていて。いわゆる近代小売が伝統小売と戦うのではなくて、伝統小売に商品供給しているんですよね。日本で言ったら、イオンが駄菓子屋に商品を流すみたいな事業ですよ。これを積極的に進めているという。だから、業界、行政、社会、地域、あらゆるものに伝統小売が守られているというね。
こういう3つの大きな理由がある中で、伝統小売が仮に減っていったとしても、その数というのはやっぱりこの数十年でなくなるということにはなかなかたどり着かないというのが実際でございます。
「存続」だけでだいぶ時間が経ってしまったので、次回ね、この伝統小売の未来「DX」についてお話をしていきたいなというふうに思います。今日はこれぐらいにしたいと思います。また皆さん、次回お会いいたしましょう。